Flashは、永遠になる。

2020年12月、サントリーが企業ページとは思えない、Flash愛に満ちた特別サイトを開設した。ゴノレゴを目にした瞬間、自分のなかで何かがふつふつと湧いてきた。

Flashは12月31日でサポートが終了し翌月には正式に実行することができなくなる。「Flashについて書き残すのは今しかない」という謎の使命感に突き動かされた。

この投稿は「 F・l・a・s・h…ふらっしゅ??何それ、おいしいの?」という人は置いてけぼりになるかもしれないが、「Flashは青春の1ページ」と言っちゃえる人の琴線にふれると幸いである。

1990年後半、ネットの遅さがFlash爆誕のきっかけ

Flashを語るうえで、ネットが遅かった時代背景を抜きには語れない。wikiによるとFlashは1996年に誕生した。ネットでの存在感を表し始めたのは1998年ごろからだった気がする。その時代、ネットといえば電話回線でつなぐのが一般的だった。2020年の現代人が体感すると絶望する速度だ。

ネットが遅すぎて一枚の画像表示に数秒待たされる世界だった。クリエイターたちは「どうすればイラストをきれいなまま、快適に表示できるか」を競うように、ファイル容量の圧縮に腐心した。JPEGの圧縮率をギリギリまで調整したり、テイストによってGIFに変換をすることもあった。そのように容量をギリギリ調整し、ウェブページに貼るイラストに心血を注いだ。

そんな絶望的にネットが遅い時代に、テレビのような映像を再生したりクリックするとグリグリ動く仕掛けいっぱいのウェブサイトが誕生した。それらは驚きをもって迎えられた。

見るものを感動させ、「動くのに軽い!Flashを使えばネットで何でもできる!!」と、多くのクリエイターたちはFlashを歓迎した。そして記憶に残る数々の名作が誕生したのだ。

2000年前半、Flashの動画に心躍った

Flashはアニメ制作ソフトではないが、Flashの特性を活用した動画が作られるようになった。初期は単色でのっぺりとした絵が多く「Flashで豊かな表現を演出するのは難しい」と誰が言ったか忘れたが、Flashで作られる動画への期待値はそれほど高くはなかったと記憶している。

しかし、その期待値を限界突破したFlashを使った作品が次々と誕生した。挙げればキリがないので、今も私の心に残る作品をいくつか紹介する。

ゴ○ゴじゃないよ、ゴノレゴだよ

まずは冒頭でも紹介したゴノレゴだ。ゴノレゴ(ごのれご)と読めず、ゴ○ゴと錯覚した人もいるに違いない。あのかすれた音声と「吉野家」のネタは幾度となく再生した。

ゴノレゴをきっかけに、ポエ山氏を知った。そのあと発表された長編アニメquino(キノ)にも衝撃を受けた。物語の素晴らしさもさることながら、Flashを使って絵を部品のように組み合わせることで作画の労力を最小限に押さえつつ、動きを最大に見せる、その制作手法に着目したクリエイターも多かったはずだ。

CATMANの衝撃

次に紹介するのはCATMAN(キャットマン)。主人公は擬人化した猫、青池良輔氏が2002年に発表した映像作品だ。Flashはツールの特性上、ベクターデータの扱いに長けている。ただし、ラスターデータ(通常の画像形式)は扱いづらいという思い込みがあった。その思い込みを見事に打ち破ってくれた作品がCATMANだった。

描きこまれた背景画と軽快に動くキャラクター。それを個人が高いクオリティで、しかも長尺の作品を仕上げたことに、ただただ脱帽した。

しかもネットの遅さを克服し、快適に再生するハイクオリティFlashアニメだった。それら全てが、クリエイターたちの創作意欲を刺激した。

静と動、物語性をもった丸山薫氏のFlash

いまでこそ、ソシャゲの一枚絵の2Dイラストがうにうに動く演出は当たり前だ。ようやく止め絵が動くようになったのは、2000年前半にネットが電話回線からブロードバンドと呼ばれたADSL回線に切り替わるころだったと記憶している。そしてFlashはその一躍を担っていた。

「止め絵のイラストを演出すること」にクリエイターたちが試行錯誤していたころ、丸山薫氏のFlashアニメ「二二九」や「十一月」が現れた。それはまるで日本のリミテッド・アニメーションの良さがにじみでた作品だった。作品のクオリティの高さもさることながら、個人で制作されたことは驚きを持って高く評価された。

なかでも8分もの長編Flash「吉野の姫」に圧倒されたクリエイターも少なくないはずだ。

注釈)個人制作のアニメとしては、2002年に発表された新海誠監督の作品「ほしのこえ」が有名ではあるが、今回の投稿の中で語るのは別軸だと思うのでここでは割愛する。ご承知頂きたい。

余談だが、丸山薫氏は2005年に上海で開催されたイベントにFlash作家として参加している。会場では「吉野の姫」の上映、丸山薫氏と来場者との質疑応答が行われた。当時会場にCGを学ぶ専門学生もいた。その学生が、今日、活躍している中国人クリエイターの中にいるかもしれない。(第7回中国上海国際芸術祭 アニメ文化芸術系列活動 2005年11月9日~11月13日)

2005年11月、上海市内の中信泰富広場にて
すべての展示作品は正規版で、当時としては希少なイベントだった

ぷるぷる、ばびゅーん! 躍動感あふれるルンパロ氏のFlash

とにかくキャラクターが躍動しっぱなし、それがルンパロ氏のFlash。

「FULL THROTTL -」(フルスロットル マイナス)2分54秒https://www.nicovideo.jp/watch/sm2604712

作る側の目線で恐縮だが「カメラワークの工夫で、自由自在な演出ができる」ことに強い関心をもった。後年、あるイベントでルンパロ氏のFlashの元データを拝見する機会に恵まれた。たしか、ステージ丸ごと(?)キャラクターを動かすようなタイムラインの構造だったと思う。「こうすればFlashでも大胆なカメラワークを実現できるんだ!!」と会場で独り感動した。

JAWACON2005で高まるウェブアニメ

ルンパロ氏を紹介するうえではずせない、ある一大イベントがある。JAWACON2005だ(ジャワコンと読む)。

JAPAN WEB ANIME CONVENTIONの略称で、ネット上で著名なクリエイターのアニメ作品を発表するイベント。「ウェブアニメーションをもっと世に広めて盛り上げよう!」という理念のもとに結成された「move on web.」というチームがあり、その活動の一環として開催されたイベント。ルンパロ氏はその中心人物であった。

2005年は個人のクリエイターが映像作品を発表する機運と熱量が半端ない年だったと記憶している。

JAWACON2005ではウェブアニメというくくりで、Flashに限らず様々な作品が公開された。青池良輔氏、森野あるじ氏、蛙男商会という作家名で反応する私と同世代のあなたは、当時ネットサーフィンでこれら作家さんの作品を楽しんでいたにちがいない。

JAWACON2005は8月に大盛況をもって幕を閉じたあと、同じく11月に上海で行われた「上海創意産業博覧会」というイベントでも作品は上映された。

私は当時の仕事の関係でルンパロ氏とお会いすることができた。豫園のライトアップを一緒に散策したのはいい思い出。

中国発、世界中で知られたFlashの動画

さて、Flashで大きな存在感を示した中国人クリエイターがいた。「棒人間(ピクトグラム)が闘う動画」で有名な、小小(シャオシャオ)である。wikiによると、作品は2000年に発表されたとある。説明不要、単純明快のキャラクターの動きと演出で見る者の心をぐっとつかんだ。(残念ながら公式サイトは閉鎖。動画を見たい人は「小小系列」で検索してほしい)

これも余談だが、2008年1月の冬、シャオシャオこと朱志強氏に会うため北京へ行った。お会いしたときの印象は中国発のFlashクリエイターの第一人者とは思えない、謙虚で物腰の柔らかい人物だったと記憶している。その後、連絡を取っていない。いまもどこかで、創作活動をしているのだろうか。

時代はスマホ到来直前。北京市内ではヤフーメールの広告がその存在感を放っていた…

古き良き中国を感じるFlashの動画

もう一人、Flashの中国人クリエイターの作品を紹介する。拾荒(シーファン)氏の「小破孩(シャオポーハイ)」だ。赤ん坊のような愛らしい見た目と動きのキャラクターが特徴的。現在は3DCGに移行しているようだが、当初はFlashを使って創作されていた。

Flashの特性を生かしたキャラクターをコミカルに動かす演出とテンポのよいストーリー展開、作品としての完成度が非常に高かった。そのうえで、作品全体から中国の古き良き伝統が感じられた。その後に誕生した「シーヤンヤン」など、中国発の作品に何らかの影響を与えたのではないだろうか。

三鷹のインディーズアニメフェスタに出演した中国Flash

さて、拾荒(シーファン)氏は2006年2月、三鷹で開催された第4回インディーズアニメフェスタというイベントに特別ゲストとして参加した。同氏は上海美術映画製作所(中文:上海美术电影制片厂)でアニメ制作の経歴のある人物ではあるが、独立当初はほぼ個人で創作活動を行っていた。そういう経緯もあってゲストとして招かれた。

2006年2月25日 第4回インディーズアニメフェスタの様子様子

イベントでは拾荒(シーファン)氏のほか、3名のクリエイターの作品が上映された。中でも悠无一品(ヨウウーイーピン)氏のFlashは、中国伝統の影絵芝居(中文:皮影戏)をモチーフとし、その独特の表現を見事に再現していた。

ポカちゃんとボクの続きが読みたかった

Flashは動画以外に、漫画でも新たな表現を試みた作品が誕生した。Flashを使えば、絵を動かすことや効果音をつけることが簡単にできる。そういった表現に「Flashに漫画の未来」を感じた。その未来をより一層強く意識させてくれた漫画が「ポカちゃんと僕」だ。

4コマ漫画形式で、止め絵を効果的に動かしつつ、吹き出しのセリフを絶妙なタイミングで表示。ボタンをクリックするとタイミングよく次のページへ進む感覚は漫画のページめくりの良さを再現していた。発表されてから十数年以上たつ2020年に見ても、その表現は色あせていない。

この作品名は今日まで忘れることなく、毎年思い出しては続きを確認するため公式サイトを訪問していた。

マルラボライフで感じた漫画の未来

もうひとつ、漫画の未来を感じたエピソードを紹介させてほしい。

かつてジャンプデジタルマンガ賞というものがあった。ざっくり言うと、紙にとらわれない新しい表現の漫画を求めたマンガ賞だ。数々の受賞作の中、記憶に残っているのはふかさくえみ氏のマルラボライフだ。王道の学園モノにもかかわらず、斬新な演出で、漫画の未来を感じさせる作品だった。

手前味噌になるが、第2回で私は努力賞をゲットした。(留学中のSARSの体験を元ネタに描いた漫画なので、時期的に公開は控える)

さいごに

2020年、光回線が一般家庭に普及し(2019年時点で54.5%)、ネットでアニメや動画を見るのはあたり前のこととなった。かつてのネットの遅さはどこへやら。夜11時前にそわそわしていた体験を知る者が、ネットの生き字引のような存在になるのは時間の問題かもしれない。

そんな生き字引きが青春と歩んだFlashは、2020年にサポート終了とともに幕を閉じる。しかし、Flashのアプリケーションは名前を変えて存在する。再生プレイヤーとしての役目を終えただけで、クリエイターたちがFlashで生み出した表現方法や発想は、未来の作品で目にするに違いない。

Flashは、永遠になる。

【オススメ】アニメ制作が題材の漫画

個人でも、仲間と一緒でも、何かを作るっていいよね。